1993(1997年02年大幅加筆)
「私はまだ泳ぐことが出来なかったので、おじさんの肩に必死にしがみついておりましたが、涙で濡れた小さな頬を海水が洗い、次第にこのままこの美しい海に沈んでいってもちっとも苦しくないというような気分になってきます。
それでフワッと手を離してみたりして、おじさんをビックリさせてみたりしました。
そんなとき浜に上がったおじさんはしばらく私をぎゅっと抱き締めておりました。」
生前、菊畑茂久馬は妻温子に何度もこの話をしたと言います。
海をテーマーにしたシリーズでは、幼少期の茂久馬少年の心の奥底に深く刻まれた五島の海の記憶が、さまざまな手法と技法で表現したように思えますが、1993-1997年に制作された「舟歌」では、「内なる必須の風景」がより洗練されたカタチとなってきたように感じます。
1993年は、三歳で他界した実父より、長く一緒に過ごした義父が亡くなった年。
「父」を亡くした気持ちを、より深く表現しているのかも知れません。(Y)
